
仕事や家庭、また友人関係で、こんなことを思ったことはありませんか?
- あの人はどうしてあんなことを言うんだろう・・・
- なんであの人はわかってくれないんだろう・・・
- 言いたいことがあってもあの人にはうまく伝えられない・・・
こういったことはあなただけでなく、誰もが経験していることです。そして、そんな人間関係をより良くするためのコツは、「相手の立場に立つこと」と言われています。あなたも一度は聞いたことがあるかと思います。
ただ「相手の立場に立つこと」といった言葉は知っていても、具体的にどうやったら相手の立場に立つことができるのか、そしてどんなプロセスで人間関係の悩みを改善できるのか、その具体的な方法を知っている人は実は少ないものです。今回の記事では、
- 停滞している相手との関係を改善したい
- 苦手と感じている人とのコミュニケーションを円滑にしたい
- 心のやり取りをよりスムーズし、質の高い人間関係をつくっていきたい
そう思われる方は今回の記事を参考にしてください。ここでは実践的なコミュニケーション心理学NLP(神経言語プログラミング)の一つの手法である「ポジションチェンジ」を具体的にご紹介しています。
![]() | 著者:足達 大和 全米NLP協会公認・NLPトレーナー |
当サイト「Life&Mind」の運営元である「NLP-JAPAN ラーニング・センター」の専属トレーナー。5,600回以上という圧倒的な回数の研修実績を持つ。 NLP-JAPANラーニング・センターとは、日本最大手の「NLP総合スクール」で、NLP業界の世界5大組織と連携。日本で唯一、NLPの基礎から大学院レベルまでの学びを提供している日本最高峰のNLPトレーニング機関。 |
目次
1.ポジションチェンジとは何か
ポジションチェンジとは、人間関係の改善のために活用されるNLP(神経言語プログラミング)の一つの手法です。ここでは、その基盤となる「知覚位置」という考え方、そして歴史的な背景とともに、その可能性をご紹介していきます。
1-1.基盤となるコンセプト「知覚位置」とは
知覚位置とは、物事や事象を私たちが認識するとき、その位置によって知覚する情報が異なるという考え方のことです。例えばある一つの図形で説明すると以下のようになります。
このように見る位置、つまり知覚する位置で、その対象は異なった情報として処理されます。そのため、いくつかの知覚位置を用いることで、一方的な認識ではなく、その形をより正確に認識することができるというものです。
つまり、あなたが四角に見えても、相手は丸に見えていたりするわけです。
ですから、自分が大切なことだと思っていることが、必ずしも相手が大切にしているわけではありません。逆も然りです。こういった考え方ができるようになると、
・停滞していると思っていたのは自分だけで、実は相手はそんなふうに思っていなかった
・コミュニケーションがとれず苦手と思っていた相手が、実はただ物静かで口数が少ない人だとわかった
・言いたいことを言えないと思っていた相手は、実はもっと私のことを聞きたいと思っていた
といったことに気づけるようになります。
このように対象となる相手の世界に入り、相手が見ている視点や気持ちなどを汲み取り、より健全な関係性をつくりだす技法をポジションチェンジと言います。
1-2.ポジションチェンジの歴史的背景
この手法が生み出されたのは、1970年代にアメリカで盛んだったフリッツ・パールズのゲシュタルト療法が発端です。そこで「エンプティチェア(空の椅子)」と呼ばれる技法がありました。
■2脚のエンプティチェア(空の椅子)
二つの椅子を用意します。一つの椅子に自分が座り、もう一つの椅子にイメージの中で関係を改善したい相手を座らせ、自分の言いたいことや伝えたいこと、わかってほしいことなどを伝えます。
そして座る場所を変えて、「相手の位置」で相手の気持ちを感じながらコミュニケーションをはかる、というやり方です。このようにイメージの中で、気持ちや考え方のやり取りを行いながら、建設的な関係を築く考え方や具体的な行動を見つける手法でした。
■NLPで登場した「第三者の位置」
NLPでは、そこに自分と相手との関係を客観的にみる「第三者の位置」を加えました。
つまり、第三者の視点により、より視野を広げ、より健全な人間関係を構築していくことを可能にしていきました。
知覚位置をまとめると以下のような3つの視点になります。
・一つ目の知覚位置は、「自分の位置」。
つまりあなたの主観的な視点です。「自分は◯◯を感じている」「自分は◯◯と考えている」という視点です。
・二つ目は「相手の位置」。
つまり相手の視点です。相手の考え方や気持ち、感情など、肩書を持っているのであれば、その立場なども感じる視点です。
・三つ目は「第三者の位置」。
自分と相手から離れた客観的な視点です。「自分の位置」の思考や感情、そして「相手の位置」の思考や感情を俯瞰して観察する視点です。
この3つの視点をNLPでは、「知覚位置」といいます。
ポジションチェンジは、この知覚位置の概念を使った技法の名称です。
1-3.ポジションチェンジの応用と可能性
このポジションチェンジは、人間関係の悩みだけでなく、ビジネスの世界でも応用できます。
例えばセールスの世界であれば、売り手の「これは素晴らしい商品だ!」という認識が、買い手の「欲しい!」につながるのかどうか、ということを意識しながらセールスを進めていくことができます。トークだけでなく、ビジネスレターや広告などもそうです。
また東京ディズニーランドは、夢の国を演出するためにディズニーランドの内側からは、他のビルや建物が視界に入らないように建設されているという話があります。顧客満足の工夫の一つで、これも言葉通り「顧客視点」に注意が向けられているわけです。
満足を与えることができている不動のテーマパークである所以ですね。
また交渉時においても活用が可能です。これはインド独立の父と呼ばれるガンジーの例ですが、ガンジーはただ「独立だ!」「暴力反対!」と言い続けたわけでなく、このやり方を用いていました。
「自分の位置」であるインドの立場で物事を考え、「相手の位置」にあたるイギリス提督の立場で何を欲しがっているのかを考え、そして今回ご紹介した「第三者の位置」で世界から見たインドとイギリスの関係という3つの視点でその状況を観察しました。
そして、インドは何をすべきか、イギリスは何を望んでいるのか、そしてインドとイギリスの関係は、世界のためにどのように考えなければならないのか、この視点を統合して、イギリスの説得に成功しました。
このように応用していけば、ポジション・チェンジは、あなたの日常に欠かせないものになります。今回は本来の人間関係の改善に焦点をあて、その具体的な手順をご紹介していきます。
※心理学NLPに関しては、こちらの記事もおすすめです。
2.ポジションチェンジの具体的な手順
ここでは、具体的な手順をご紹介します。まずは、全体的な流れを確認してください。
2-1.スペースを用意する
■椅子を二脚用意し、距離を確認する
まず椅子を二脚用意し、実践するスペースをつくります。椅子と椅子の距離は、約1メートルぐらいを目安にしてください。
対象にする相手に対して、心理的に抵抗がある場合だと、近すぎるとうまく向き合うことができません。「自分の位置」「相手の位置」に少し座りながら、しっかりと向き合って実践できる距離をつくってください。
2-2.自分の視点で相手を観る
■「自分の位置」で目の前の椅子に相手をイメージの中で座らせる
図のように「自分の位置」に座り、もう一方の椅子にイメージの中で、改善したい相手を座らせます。そして、その人に対して感じていることや伝えたいこと、わかってほしいこと、期待していることを伝えます。
椅子に座ってすぐに伝えるのではなく、しっかりとイメージの中で相手を確認してください。どんな表情で座っているのか、どんな姿勢で座っているのか、どんな雰囲気を出しているのか、呼吸なども感じ取れるぐらいしっかりと相手を感じてください。
そして、実際に声に出して伝えます。伝えるときには、いつも呼んでいる呼び方で相手を呼び、感情を吐き出したりぶつけるのではなく、言いたいことが相手に伝わるように伝えていきます。全て言い切るまで続けてください。
2-3.二人の関係性を観る
■第三者の位置で二人を観察する
「自分の位置」で自分のことを伝え終えたら、「第三者の位置」に移ります。そして、その視点から自分と相手の関係性を客観的に観察します。
この「第三の位置」に移るときは、「自分の位置」で感じた感情をしっかり「自分の位置」に置いて移ります。必要であれば、体を揺らしたりして気持ちをリセットしてください。そうすることで、二人の関係性をより客観的に見ることができます。
この位置と視点を用いながら、以下のような問いかけをするといいでしょう。
- 「この人」と「この人」は、本来はどんな関係にある二人なのか
- どちらが「良い」「悪い」ではなく、どうなったほうがより良い関係になれるだろうか
- この二人が互いに望んでいる方向性や目的はなんだろうか
- 自分の位置に座っている人は、何を期待しているのか
- 相手の位置に座っている人は、何を期待しているのか
2-4.相手の世界を体験する
■「相手の位置」で、自分を観察する
「第三者の位置」で、客観的に自分と相手との関係を確認したら、「相手の位置」に移ります。そして、気持ちをリセットして、改善をしたい相手のなかに入り込むようなイメージで相手が座っている椅子に座ります。
※人によってはすぐにできる人もいますし、抵抗を感じてなかなか入れない場合もあります。抵抗を感じる方は、まずは瞬間的に座ってみてください。そして、「自分の位置」に座っている自分を観察してください。
ここで2-2のところで、伝えていたメッセージを受けとめ、どのように感じるかを確認します。そして、相手の感覚になって感じていることや伝えたいこと、わかってほしいこと、期待していることをイメージの中の「自分の位置」に座っている「あなた」に伝えます。
伝える前に相手の感覚を確認してください。なりきることです。相手の表情や姿勢、また呼吸や感情なども感じてから、その人がいつもあなたを呼んでいる呼び方や言い方を、真似して伝えていくのがコツです。ポイントは、しっかりと言い切ることです。
このステップをしっかりと体験できると、思ってもみなかった相手の視点や考え方が理解できたり、その人は個人ではなく、「立場としてそのように振舞う必要があったんだなぁ」といった気づきがあります。
2-5.二人の情報を整理する
■「第三者の位置」でイメージの中で座っている二人を観察する
相手の感情を「相手の位置」に残したまま、「第三者の位置」に移ります。相手の気持ちや考えを踏まえ、ここからまた改めて二人の関係を客観的に観察します。
どちらかに偏ることなく、対等に互いを観察してください。
「相手がどんな気持だったのか、考えだったのか」に気づきながら、「自分の位置に座っている自分は、何を伝えたがっていて、相手のどんな思いに気づき、または気づいていないのか」を確認してください。
2-6.もう一度自分の世界をあらためて確認する
■「自分の位置」であらためて情報を整理する
ここで「自分の位置」で相手の気持ちや考えを受けとり、最初に座ったときと、このときに座っているあなた自身の感じ方を確認してください。そして、どんな変化が起きているのかに気づいていきます。多くの場合、ここで自分以外の視点が手に入っている状態です。
あなたのこれまでになかった視点を手に入れ、今後どんなふうに関わればいいのか、相手への見方だけでなく、関係性に対する見方も持ちながら、あなたからできる具体的な行動をあげてみてください。具体的な一歩を見つけていきます。
2-7.二人の関係性についての可能性を確認する
■「第三者の位置」でイメージの中の二人の可能性を考える
もう一度「第三者の位置」に移り、あなたが具体的な行動によって違いを生み出すことができたら、これからどんな肯定的な展開が起こりそうなのかを確認してください。
以上がポジションチェンジの手順です。
大切なことは、しっかりと自分と相手の立場に立った世界の理解、そして客観的な立場からの理解を大切にしてください。
違った視点を見つけるために必要であれば、「第三者の位置」を二つの椅子から距離を離したり、角度を変えたりして、二人の関係を見ていくこともできます。
ここで全体の流れをまとめておきます。
- 準備。椅子を二つ用意する
- 「自分の位置」でイメージの中の相手に伝えたいことを伝える
- 「第三者の位置」で二人を観察する
- 「相手の位置」で相手の世界を体験し、イメージの中の自分に伝えたいことを伝える
- 「第三者の位置」で自分と相手の二人の思考や感情といった情報を整理する
- 「自分の位置」で新たな視点や具体的な行動を見つける
- 「第三者の視点」で違いを生み出し、改善されたときの二人の肯定的な可能性を確認する
※実践する時間はケースによってさまざまです。言いたいことを「自分」と「相手」のそれぞれの位置で言い切ることを重視してください。
※あらたな視点や具体的な行動といった、何かしらのヒントが生まれるまで取り組むことがコツです。一通りの流れが終わり、必要であれば、またそれぞれの位置をしっかりと体験しながら視点や行動を見つけていきます。
3.事例に見るポジションチェンジの活用
以上がポジションチェンジの具体的な手順です。ここでは、その技法を通してどのような気づきが得られるのか、その事例を3つのケースでご紹介します。
3-1.相手が上司のケース
・上司と部下は、本来仕事で成果を出す関係で、上司にとっても、会社にとっても、自分の存在は重要なのだと気づくことができた。(20代 男性)
・変な自分のプライドが邪魔していた自分に気づきました。そして、いろんなことを人のせいにしている自分に気づくことができました。素直に上司に相談することが重要だと今は思っています。(20代 女性)
・厳しく感じられたのは、期待されているからだとわかった。イメージの中の上司のメッセージで「自分の力はこんなものじゃない」と逆にうれしくなった。(30代 男性)
3-2.恋愛、結婚におけるパートナーとのケース
・妻は自分のことに嫌気がさしているのではなく、子育てのことで精一杯だったんだとわかった。ゆとりを持って接する気持ちが結婚生活で大事だと思った。(30代 男性)
・相手の言動が私を突き放すように感じていたのは、自分の不安が原因だと気づいた。私を気遣ってくれているとわかったときは、本当にうれしかった。(30代 女性)
・イメージの中の私は、まったく人の話を聞いていない自分でした。これでは相手も話す気が起こらなかったでしょうね。しっかりと相手の顔をみて、目をみて、コミュニケーションをとることが大切だとわかりました。(20代 男性)
3-3 相手が親のケース
・いつも見守ってくれていた両親の気持ちが伝わり、自分の命を大切にしていこうと思った。(20代 女性)
・親も自分と同じように不器用で、どんなふうに接していいかわからずにいたことは、大きな発見でした。親ではなく、一人の人間として愛おしくなりました。(30代 女性)
・私を育てるために自分の夢を断念し、生活を支えていた親の本音を聞くことができました。「お前のためなら、夢の一つや二つがなくなっても惜しくはない!」このメッセージを聞いたときは、本当に心にしみました。(30代 男性)
4.まとめ
ポジションチェンジは、自分の世界、相手の世界、そして第三者の世界を統合し、よりよい状況や関係性を見出す手法です。しっかりとそのポジションを感じて、なりきって、取り組むのが大事なポイントです。立ってやることもできますし、回数を重ねていけば場所を移動しなくても、相手の立場や気持ち、思考を察することができるようになります。まずは、基本的な「椅子を用意したやり方」で体験することをおすすめします。
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