ロジカル・シンキングとは「論理的思考」という意味で使われています。
その内容は、単に「物事を論理的に考える」というものではありません。目の前に横たわる問題を解決するために、様々な観点から解決策を検討し、当事者全員が「なるほど」と思える対策や対処法を見つける手法です。
検討を行うに際し、フレームワークという型を上手に活用すると、抜け漏れのない検討が行えます。それにより、目標達成やプロジェクト進行といったゴールに向かって、「あれについてまだ検討していなかった」「この部門のことを考慮し忘れた」というようなことがなくなります。
また、試行錯誤の振れ幅が小さくなることで、結果として効率的に結論を導くことができます。
この記事では、初めての方でも分かりやすいようにロジカル・シンキングの考え方を解説し、毎日のトレーニング法やおすすめの入門書もあわせてご紹介します。
目次
1.ロジカル・シンキングの基礎知識
あなたが、とある企業の経営企画部長であるとします。社長から「当社の競争優位性を高めるにはどうしたらよいか」と言われたときに、どう答えますか?思いつくままに列挙すると、次の(A)の図のような内容を並べることができます。
ただ、これだけでは目的や効果とそのための行動が混在していて、「それで、当社としてはどう解決に向けて取り組んでいけばいいのか」ということが分かりにくいですよね。
それでは次のようにまとめてみるとどうでしょうか。(B)の図を見てください。
まずは、「個人が技術力を磨く」という項目を取り上げて、他との関係性を見てみましょう。「リーダー研修の参加者を増やす」「カンファレンスの参加機会を増やす」「外部顧問の勉強会頻度を増やす」の3つが「具体的行動」であり、これらが「個人が技術力を磨く」目的達成につながる、という関係性が見えてきます。
こうすることで、(A)の内容は、社員個人の問題、組織の問題、対お客さまの問題という3つに分類できることが見えてきます。それを「目的」と「そのための行動」に分けて可視化できるように、組み替え、並べ直したものが(C)の図です。
こうすると、3種類に分けた問題への対処策が、鮮明に見る側に伝わってくるようになります。
ロジカル・シンキングとは、簡単に言うと、頭の中でもやもやしている
- のような状況を、
- の過程を経て
- のように分かりやすく整理し、命題に対する答えを導く
そのための考え方と言えます。
整理するにあたり、様々なフレームワークを活用すると、抜け漏れやダブりがなく、合理的に検討を行うことができます。
そして、ロジカルに考えを進めていく上で、基本となるキーワードが2つあります。
① MECE(ミーシーまたはミッシー)
- M:Mutually(お互いに)
- E:Exclusive(ダブりなく)
- C:Collectively(全体的に)
- E:Exhaustive(漏れがない)
「要素同士がダブりなく、全体で見たときに漏れがない」という意味です。物事を検討する際には、要素同士が重なったり、逆に抜け漏れがあったりしないかチェックすることが大切です。
② 「So what?」「Why so?」
根拠や事例を挙げた後に「結局何なのか」、結論が出たときに「なぜそう言えるのか」と問い直し、それに答えられるようにします。
1-1.由来と歴史
論理的思考自体は、様々なビジネスの現場で行われてきたものです。日本では、1990年代後半から大手経営コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーの出身者のコンサルティングノウハウが書籍化され、世の中に広く知られることとなりました。
1-2.クリティカル・シンキングとの違い
ロジカル・シンキングと並んで、クリティカル・シンキングという言葉もよく聞かれます。
ロジカル・シンキングは「問題解決にあたり、情報を分類・整理して分かりやすく論理的に解決策を検討すること」であり、クリティカル・シンキングは「そもそもの前提が正しいのか、他に考えられることはないのか」と、問題解決に向けて、より掘り下げて検討していくものと言えます。
両者は全く別の思考法ということではなく、クリティカルに考えてロジカルに説明するというように、両方を合わせ技で使うことで、相手を納得させられる結論を導き出すことができます。
1-3.ロジカル・シンキングを会得するとできること
それでは、ロジカル・シンキングを行うことでどのようなことが実現できるのでしょうか。突き詰めてみると、次のようにまとめられます。
- 効率化:不要な作業や迷う時間などの無駄がなくなり、効率よく行動できるようになる
- コミュニケーション:商談や日常生活で、相手に分かりやすく話せるようになる
- 説得力:立てた企画が社内で通りやすくなったり、相手が自分の意見を受け入れてくれるようになったりする
- 課題解決:漠然としていた問題を整理し、効果的な施策を打つことができる
つまり物事を効率的に整理して考え、まとめた上で、人に分かりやすく伝えることができるようになると、仕事でもプライベートでも色々なことをスムーズに行えるようになります。
2.ロジカル・シンキングを身につける実践トレーニング法
それでは、ロジカル・シンキングを実践する上で便利なツールであるフレームワークと、それを使ったトレーニングをご紹介します。考え方の型としてのフレームワークや、検討にあたってのツールとしてのフレームワークなど様々なものがあります。
2-1.空・雨・傘
「ロジカル・シンキングと言えばこれ」というような有名なフレームワークの1つで、思考のプロセスを型として表したものです。
① 事実を見て、②判断し、③行動に移す、の3ステップです。
このフレームを使うことで、客観的な事実とそこから導かれる推論を分けることができ、所与のものと思っていた前提条件などのうち、そうではない推論の部分を柔軟に考えていくことができます。
2-1-1.(例題)本日のランチ問題
午後にお客さまとのアポイントがあり、急いで昼食をとりたいが、社内食堂が混んでいる場合、どうしたらよいか。
事実:社内食堂が混んでいる
判断:ここで食べていては午後の約束に遅れてしまう
行動:コンビニでお弁当を買っていくことにする
ここで大切なのは、行動の所は様々な答えがあり得るということです。あくまでも考え方として、このように順序立てて行動につなげるのがトレーニングです。
2-2.3C/4C
物事を整理するときに使うフレームワークです。自社を取り巻く環境を全体と捉えたときに、Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)、 Channel(販路)の切り口から全体像を俯瞰します。
このフレームを使うことで、マーケティング戦略を立案する場合、どこに注力すべきか、何が自社の強みなのかといったことがはっきりします。
2-2-1.(例題)コーヒー店を隣駅の駅前に出店すべきか。
現在、ある駅前に3店舗展開しているコーヒー店を、同じ沿線の隣駅の駅前に出店すべきかどうか。
Customer:隣駅には高層マンションやオフィスがあり、住民や昼間人口(通勤客)の需要がある。
Competitor:有名なコーヒーショップのチェーン店がすでに2つある。
Company:同じ沿線では、まだ今の駅にしか出店していない。
上記のように、3Cの切り口から課題を分析していきます。
2-3.ロジックツリー
課題に対する複数の選択肢(原因や解決策など)を洗い出し、その選択肢をさらに広げてツリーのような図にしながら、物事を分解していく手法です。
このフレームを使うことで、問題を細分化して掘り下げていくことができ、また、不要な選択肢はこれ以上検討しなくてよいことになります。
2-3-1.(例題)仕事がうまくいかない。その原因はなにか。
ここで大切なのは、各段階ごとに抜け漏れなく状況を洗い出すことです。例えば、自分では人間関係が原因ではないと思っていたけれど、抜け漏れなく洗い出すことで「業務内容より、社外の取引先との人間関係が原因なのかもしれない」と気づくことができる、などの効果があります。
2-4.マーケティングファネル
お客さまに商品やサービスを買っていただくまでのプロセスを分解したものです。「認知」「理解」「検討」「購買」「リピート」という段階を図にしたもので、各段階のどこが上手くいっていて、どこが問題なのかを分析できます。最近はSearch(検索)やShare(情報共有)といった項目も加わっています。
ちなみに、マーケティング用語で消費者行動を表すものにAIDMA(アイドマ)の法則というものがあり、それに似ています。Attention(認知)→Interest(興味)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動)
このフレームを使うことで、マーケティング戦略を練るうえで、どの段階に資源を投入すると効果的なのかが見えてきます。
2-4-1.(例題)業界トップシェアだったA商品が売上不振となっている。
どの段階で対策を打てばよいのか検討します。
- 「認知」:なぜ新規のお客さまが少ないのか。
- 「理解」:特色が伝わりにくいのか。
- 「検討」:競合商品と比べて強みや弱みは何か。
- 「購買」:決め手は何か。価格か、品質か、スペックか、それ以外か。
- 「リピート」:なぜリピート率が低いのか。
というように、問題点と考えられることを洗い出すことが可能です。
3.おすすめの入門書
書店のビジネス書コーナーに行くと、ロジカル・シンキング関連の本がたくさん並べてあり、どれを選んでいいのか迷います。入門編として、分かりやすく、また読み進めやすいものをご紹介します。
3-1.考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則―
著者のバーバラ・ミント氏はマッキンゼー・アンド・カンパニーから独立後、この本を執筆しました。ロジカル・シンキングの草分けであり、物事をピラミッド構造化して整理する方法について詳しく書いています。ビジネス文書の書き方の教科書として、長年読み継がれてきた一冊でもあります。
ロジックツリーの構造や、それを使った例が詳しく書かれており、ロジカル・シンキングのフレームを実践で活かす際の参考になります。
3-2.ロジカル・シンキング-論理的な思考と構成のスキル-
読み応えのある本で、各章に練習問題がついており、体系的にロジカル・シンキングを学ぶことができます。
具体的な問題を読むことで、日常業務に応用する際のヒントとなります。
3-3.マッキンゼー流入社1年目ロジカルシンキングの教科書
上記二冊と違い、柔らかいトーンのビジネス書で、すいすい読み進めることができます。ロジカル・シンキングとクリティカル・シンキングの両方について分かりやすく説明してあります。
まさに入門編の一冊で、「ロジカル・シンキングを使うと仕事がこう進む」ということが具体的に書いてあり、やる気が出ます。
まとめ
ロジカル・シンキングとは、物事を過不足なく整理して、課題に対する答えを効率よく導き出していくことです。これは慣れてくると難しいものではなく、仕事でもプライベートでも活かすことができるスキルです。
- 空・雨・傘
- 3C/4C
- ロジックツリー
- マーケティングファネル
今回ここでご紹介した、上記のようなフレームワークを使えば、混沌とした問題に含まれる情報を分類・整理して、すっきりした頭で解決策を考えることができます。また、他の人に説得力を持って説明することができます。
この他にも様々なフレームワークがありますが、目の前の状況に合うものを使って、物事を分かりやすく人に伝えることに、ぜひチャレンジしてみてください。