クリティカル・シンキングとは、
「批判的思考」と直訳されますが、
単純に否定したり反対したりするという考え方ではありません。
議論の前提条件が「本当に正しいのか」と疑問を持って、
考えを深めていき、課題を解決していく思考作業です。
それでは、クリティカル・シンキングについて、
図解と具体例を使って分かりやすく解説していきます。
目次
1.クリティカル・シンキングの意味とはじまり
クリティカル・シンキングとは、物事の結論を導く過程において、「なぜ」「本当にそうなのか」と批判的に問うことで納得のいく結論に到達するための思考法です。
かつてアメリカの教育界で、知識の詰め込みではなく、クリティカル・シンキングを使って客観的に判断、決断をできるようにしようという方向になりました。日本でも同様の流れがあります。そして、その流れは教育の世界だけではなく、ビジネスの世界においてもより実践的に用いられるようになっています。
【例】
【主張・理論】
- 「健康に配慮した商品が売れているので、健康志向が高まっているはずだ。」
【仮説】
- 健康志向とは具体的にはどういう意識か?
- すべての年齢層で健康志向が高まっているのか?
- 健康に配慮した商品とは、具体的にはどういうものか?
- 健康以外の切り口で商品が売れているのではないか?
1-1.ロジカル・シンキングとの違い
クリティカル・シンキングと並んで、ロジカル・シンキングという言葉もよく聞かれます。ロジカル・シンキングは「物事を筋道立てて、要素に分解して考えること」であり、クリティカル・シンキングは「本当にその前提が正しいのか検証した上で本質を見極めること」です。
両者は全く別の考え方ということではなく、クリティカルに考えてロジカルに説明するというように、2つを上手く使いこなすことで、核心を突いた問題解決策に到達することができます。
批判的思考(クリティカル・シンキング)と論理的思考(ロジカル・シンキング)は、どちらもビジネスの世界や日常生活で役立つ考え方です。この2つの思考法は、常に意識することで上手く使いこなせるようになっていきます。
2.クリティカル・シンキングの考え方と具体例
クリティカル・シンキングの概念が分かったところで、具体的な事例を考えてみましょう。
2-1.基本的な考え方
クリティカル・シンキングの基本姿勢として、以下の3つのものがあります。
上記の基本姿勢について一言触れてみますと、
①は、これから検討する課題について、ゴールは何かをしっかり定めるということです。目の前の事象の対症療法ではなく、根本的な解決を目指すことが大切です。
②は、人には思い込みや偏見、大事にしている価値観、暗黙のルールなどがあるものだ、と認識した上で、それにとらわれずに「他に要因がないか」「これがベストな打ち手なのか」ということを、客観的に考えることです。推論するのではなく、根拠となる事実をもとに検討していきます。
③は、常に考え続けるということです。トヨタ自動車の「5回のなぜ」(「なぜ?」を5回繰り返し考えることで、本質的な原因を見つけ出す分析手法)にもあるように、問題解決まで物事を突き詰めていきます。そうすることで、考える習慣もできてきます。
2-2.【具体例1】「若手社員が育たない」この状況を打破するには?
【Bさんの主張】
:「当社の若手社員は、入ってすぐ辞めていくので、人材が育たない。今時の若者は離職率が高いから仕方がない。すぐ辞める人かどうか、採用での見極めを強化すべきだ」
【仮説】
仮説1.今時の若者は離職率が高い。
仮説2.すぐ辞めるので、育てても無駄だとみんな思っている。
仮説3.すぐ辞めそうな人は、採用時に見極められるだろう。
若者を育てることに注力するよりも、採用の時点で辞める人かどうかを見極める方針を強化すべきだ。…結論
【疑問】
- 「すぐ辞める」というのは、どのくらいの期間で、どのような理由で辞めているのか調査したか?それらが、果たして今時の若者の離職率データと一致しているのだろうか?
- 「辞めるから育てない」のか?「育てていないから辞めてしまう」のではないか?
- 職場での若手社員の育成方法に問題はないか。育成方法のプロセスや、人員は十分か?
- 若手社員が「辞めます」と意思表示したときに、上司は引き留めるなどの努力はしているのか?
- そもそも、採用時に見極めるという方法は当社で実現可能なのか?
理論的には、一見正しく展開されているように見えますが、結論から逆に考えていくとそれが成り立たなくなる場合は、結論を再考すべきだということになります。
2-3.【具体例2】低迷している営業部の売上を高めるには?
では、具体例で考えてみましょう。
【Aさんの主張】
:「営業部の売上低迷が原因で、会社の業績が落ちている。取り扱い商品を増やして売上向上を図るべきだ」
【仮説】
仮説1.営業部の売上低迷のせいで、会社の業績が落ちている。
仮説2.営業部は、変化を好まず現状維持を重んじる雰囲気がある。売上向上のためには、何か変化を起こすべきだ。
仮説3.取り扱い商品を増やせば営業しやすくなり、活気が生まれるだろう。
取り扱い商品の範囲を拡大し、売上向上につなげよう。…結論
【疑問】
- そもそも、会社の業績が落ちている原因は、営業部の売上低迷だけが原因なのだろうか?他部門はどうだろうか?
- 取り扱い商品を増やせば、本当に売上が向上するのだろうか。商品ラインの拡大よりは、現行の取り扱い商品を見直し、選択して絞り込みをするなど、メリハリをつけた販売戦略が先ではないか?
- ライバル企業の当社市場参入、ライバル商品の出現などの影響有無の調査をしているか。安易な新商品取り扱いへ走っていないか?
このように、Aさんの推論や思い込み、偏見で結論を出してしまうのではなく、組織や市場の状況を十分に確認していくことが大切です。
3.初めての方におすすめの本
クリティカル・シンキングについて本を読んで理解したいという方に、おすすめの3冊をご紹介します。
3-1.『3分でわかるクリティカル・シンキングの基本』
様々な企業の事例がたくさん記載されており、ビジネスパーソンにとって、自社の事例にあてはめて考えやすくなっています。
3-2.『実践型クリティカルシンキング』
講義の会話形式になっているので読みやすく、練習問題を一緒に考えていきながら考えを深めていくことができる、分かりやすい1冊です。
3-3.『グロービスMBAクリティカル・シンキング』
MBAのテキストとなっており、読みごたえがありますが、内容としては平易な書きぶりです。演習問題やその解説も豊富で、さまざまなケースに強くなれます。
まとめ
クリティカル・シンキングは、複雑で難しいものではありません。日ごろから「本当にこれでいいか」「なぜこうなんだろう」という疑問の視点をもって考え続けることで、本質を見極められるようになっていきます。その結果、より生産性の高い仕事ができたり、快適な生活を送れたりするようになります。
クリティカル・シンキングにぜひ興味を持っていただき、より身近なものとしてご活用いただけたら幸いです。
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